米ITC(国際貿易委員会)が、Apple・サムスン・Googleのスマートフォンやタブレットの米国への輸入差し止めを求める音声処理技術企業BoomCloud 360の申立てを受け、輸入品の知的財産侵害を扱う337条調査を開始しました。
通信キャリアと量販店を先に提訴、その後Apple・Google・サムスンにも訴訟が拡大
BoomCloud 360はカリフォルニア州エンシニタスに拠点を置く音声処理技術の企業で、スマートフォンのスピーカーで音に広がりを持たせる空間オーディオ関連の特許をめぐり、2026年1月から米国で訴訟を続けています。米国では侵害品を販売する企業も特許侵害の責任を問われるため、同社は1月に、Appleやサムスンなどのスマートフォンが特許3件を侵害しているとして、これらを販売する通信キャリアのAT&TとT-Mobileを米テキサス州の連邦地裁に提訴し、6月には量販店のWalmart、Target、Best Buyも同じ地裁に訴えていました。
この時点では端末を作っているメーカーは被告に含まれていませんでしたが、Appleは8月5日に、自社製品が特許を侵害していないことの確認を求める非侵害確認訴訟を起こしました。その後、BoomCloudは8月13日にApple、Google、サムスンを別の特許3件で直接提訴し、Googleは8月18日、サムスンも9月3日に非侵害確認訴訟を起こしています。
こうした中、BoomCloudは8月14日に、輸入品による知的財産の侵害を扱う337条調査をITCへ申し立てており、ITCは9月16日に調査(事件番号337-TA-1521)の開始を決定しました。今回はApple、サムスン、Googleの3社が直接の対象になっており、特許も米国特許10,524,078、11,533,560、11,051,121の3件と、通信キャリアや販売店との裁判、3社の非侵害確認訴訟で争われている3件とは別のものが使われています。
ITCの調査通知では、対象は「スマートフォン、タブレットなど」とされているだけで機種は挙げられていません。問題とされているのは、左右のスピーカーの特性の違いを補正しながら音の広がりを強調する処理、再生する機器やアプリに応じて音質の補正を切り替える処理、左スピーカーの音が右耳にも回り込むクロストークを抑え、その際に生じる音質の乱れも補正する処理の3つで、いずれもスピーカーなどの部品ではなくソフトウェア側で行われる音声処理です。
ITCに侵害が認められた場合、米国への輸入が差し止めに
ITCには損害賠償を命じる権限がなく、BoomCloudが求めているのは、3社の製品に限って米国への輸入を止める限定的排除命令と、米国内での販売を止める販売停止命令です。ただし、調査の開始は侵害を認めたものではなく、今後は行政法判事による証拠審理と委員会の審査を経て結論が出されます。結論の時期は決まっていませんが、ITCは調査開始から45日以内に完了の目標日を設定するとしています。
仮に侵害が認められて排除命令が出た場合、命令は発令時から効力を持ちます。ただし、その後60日間は大統領審査期間となり、この期間中はITCが定めた保証金を納めれば対象製品の輸入を続けることができます。期間中に米通商代表部(USTR)が政策上の理由で命令を拒否しなければ、その後は対象製品を米国へ輸入できなくなります。
3社にとっては命令が確定する前にライセンス契約や和解で決着させる動機が大きく、BoomCloudが販売店との裁判とは別の特許を使ってITCに申し立てたのも、3社を交渉の席に着かせる狙いがあるとみられます。そのため、輸入差し止めまでは進まず、ライセンス契約や和解で決着する可能性も十分にあります。
日本では輸入差し止めは無いが、ソフトウェア変更が入る可能性も
ITCによる輸入差し止めの効果は米国への輸入と米国内での販売に限られるため、日本での販売が止まることはありません。9月にAppleがFace IDの特許侵害で米連邦地裁に提訴された際と同様に、日本で販売を差し止めるにはBoomCloudが日本でも別途権利行使する必要があります。
ただ、今回問題とされているのはソフトウェアによる音声処理のため、ライセンス契約や和解以外では、該当する処理を別の方式に置き換えることも対応策の一つになります。こうした変更が米国向けの端末だけではなく、iOSやAndroidなどのアップデートとして世界共通で配信された場合、日本のユーザーにも空間オーディオの仕様変更が入り、聞こえ方や仕様の一部が変わる可能性があります。


