BASFの子会社trinamiXが、AppleがFace IDでなりすまし対策向けの素材・皮膚検知に関する特許7件を侵害しているとして、Appleを米テキサス州の連邦地裁に提訴しました。
争点はiPhone 15以降のFace IDで実装された素材・皮膚検知
trinamiXはドイツ・ルートヴィヒスハーフェンに拠点を置くBASFの総合化学メーカーの完全子会社で、原点は2010年にBASFの研究者が有機太陽電池の研究中に得た予期しない発見にあり、これが初期の3Dカメラの試作につながり、3D・素材センシングを扱う独立した事業体として切り出されたとのことです。顔認証の分野では、カメラの前にある対象が本物の人間の皮膚かどうかを判定する技術を開発してきました。
trinamiXが9月3日(米国時間)に米テキサス州ミッドランドの連邦地裁へ出した訴状は、写真や3Dプリントのマスク、シリコーン製の複製によるなりすましを見破るための素材・皮膚検知に関する特許7件の侵害を主張しており、同社はこの技術の開発に10年を費やしたとしています。求めているのは金額を示さない損害賠償と侵害の停止で、訴状はAppleが、iPhoneとiPadに素材・皮膚検知を使うFace IDを組み込むことで7件の特許を侵害する可能性が高いことを「知っていたか、知っているべきだった」と主張しています。
訴状は、Face IDが2017年のiPhone Xで導入された時点ではAppleが同社の技術を使っていなかったとしたうえで、現在はiPhone 15、iPhone 16、iPhone 17やiPad Proなどで使われていると主張しています。対象製品はiPhone 15、iPhone 16、iPhone 17、iPad Proなどと例示されており、機種を網羅したリストではありません。そのため、9月9日(米国時間)に発表される見込みのiPhone 18 Proが同じ素材・皮膚検知を引き継ぐ場合、trinamiXが新モデルについても侵害を主張する可能性があります。
一方、trinamiXは2022年11月のSnapdragon Summitで、有機ELパネルの裏に隠したまま動作する顔認証をSnapdragon 8 Gen 2のリファレンスデザイン上で実演しています。皮膚を検知して生体かどうかを判定する同社の顔認証技術は2021年にFIDO Alliance、Android、IIFAAの認証を取得し、Android端末とモバイル決済での利用が認められています。また、trinamiX全体の特許・出願件数は2022年11月時点の370件超から、訴状時点では800件超に増えています。
ただ、Appleは提訴時点でコメントを出しておらず、訴状の主張はまだ法廷で検証されていません。また、trinamiXが求めている侵害の停止は米連邦地裁への請求であり、この訴訟だけで日本国内の販売が直接差し止められるわけではありません。Pixel 7が特許侵害で日本国内の販売停止に至った例のように、日本で販売差し止めを求めるには、日本でも別途権利行使する必要があります。そのため、日本市場への影響が生じるとすれば、trinamiXが日本でも権利行使を行うか、Appleが訴訟対応として世界共通で素材・皮膚検知の実装を変更する場合などが考えられます。Appleがライセンス料を支払う形で解決する可能性もあります。いずれにしても、提訴されたばかりであり、裁判で争う場合は決着まで数年かかる可能性があります。


