ソニーがPlayStation 5 Pro向けアップスケーリング技術「PSSR」の改良版について、AIモデルの担当範囲をあえて狭める再設計だったことを技術講演の資料で明らかにしました。この見直しで、画質向上に加えモデルの学習に必要なGPU時間は約4GPU月から1GPU週未満へ短縮されたとのことです。
初代PSSRはAIモデルに任せすぎていた。改良版は計算を従来手法へ戻した
PSSRは、2024年11月発売のPS5 Proの3本柱の1つに位置付けられるソニー独自の機械学習ベースのアップスケーリング技術です。開発は5年以上前に始まり、モデルに合わせて専用のハードウェアアーキテクチャーと命令セットまで設計されるほど力の入った機能でしたが、実際の運用では画質面の弱点も見えていました。そのため昨年末にはPSSRの改良版が2026年に投入される見込みと伝えられ、今年に入って実際に提供が始まっています。
この再設計の中身は、進化版PSSRの開発を主任研究者として率いたソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のDaniel Craig氏がSIGGRAPH 2026の講演で明かしたもので、その講演資料が8月13日付で公開されました。講演では初代の弱点も率直に語られ、ゆっくり変化するライティング効果でのちらつきと、2.5〜3倍に引き伸ばした際の細部の甘さが目立ったほか、HDRカラーの扱いや1回の学習に約4GPU月を要する開発の重さも課題だったとのことです。
こうした弱点は初代PSSRの設計に起因していました。初代はAIモデルが画面の色を直接出力する方式のため、HDRカラーの保持もアンチエイリアス相当の計算も8bitで動く1つのモデルが抱え込んでいました。しかし、8bitのモデル内でHDRカラーを保持・再現するのは非効率なうえ、学習信号もモデル内部を通るたびに弱くなるため、離れたフレーム同士の関係を学ぶことも極めて難しくなっていました。かといって、初代の開発中からPC向けの機械学習アップスケーリングは処理コストを増やしながら画質を伸ばす方向へ進み、この路線は固定性能のコンソールでは成立しないとソニーは判断していました。コストあたりの品質という制約が、AIの担当範囲をむしろ狭める再設計の方向を決めたと考えられます。
AIに出させるものを色から「混ぜ方」へ変更
アップスケーリングはもともと、低解像度のピクセルや過去のフレームを組み合わせて高解像度の絵を作る処理です。初代は完成形の色をAIに直接描かせていたのに対し、改良版はAIの役目を「材料をどの比率で混ぜるか」の判断だけに絞り、絵を仕上げる計算は従来のフィルター処理に任せています。
比率の数字なら8bitのモデルでも十分な精度を確保できるため、モデル内でHDRカラーを保持する必要がなくなり、初代で見られた色ずれも抑えられます。また、色の合成処理をモデル外へ戻したことで学習信号が過去フレームまで直接伝わりやすくなり、離れたフレーム同士の関係も学習しやすくなりました。
もう1つの弱点だった高倍率時の細部には、モデルのパラメーター配分を変えることで対処しています。基本的にPSSRでは内部で絵を540p相当まで縮小した粗い段階から、最終出力の4Kに近い細かい処理までいくつかの段階に分けて分析しています。ただ、モデルの規模は決まっているため、どの段階へどれだけパラメーターを配るかは重要な設計要素になります。初代は高解像度側に多くのパラメーターを割いており、最も低い540pの段階には全体の約3割しかありませんでした。

しかし、改良版PSSRはこの配分を逆転させ、パラメーターの約9割を540p以下の低解像度段階に集中させ、4Kに近い高解像度段階にはほとんど割り当てません。実際のゲームでは、720pほどの映像を4Kへ引き伸ばす2.5〜3倍の拡大が多く使われていましたが、低解像度側へモデルの容量を集中させることで、PSSRが最も使われる場面で大幅な画質向上を実現しています。
AIで生成ではなく再構築へ
AIの出力が混ぜる比率だけになったことで、最終的な出力は入力サンプルの色の組み合わせの範囲内に構造的に制限されます。そのため、存在しない内容を描き足す「ハルシネーション」は実質的に防がれ、生成型ではなく再構築型に近い設計になります。ソニーは、こうした性質が開発チームの懸念に対応するうえでも有用だと説明しています。
このPSSR改良の成果についてソニーは、すべての入力解像度で画質が向上し、とくに低解像度で顕著だったほか、時間方向の安定性も改善し、GPUの処理時間とメモリ消費も削減されたと説明しています。
なお、講演資料では初代と進化版を合わせて約100タイトルでPSSRが使われているとされ、PS5 Proのシステム設定から進化版PSSRのオーバーライドを有効にすれば、既存のPSSR対応タイトルにもゲーム側の更新なしで適用できます。加えて、開発面でも学習に必要なGPU時間は約4GPU月から1GPU週未満へ短縮され、単純比較では従来の16分の1以下になりました。そのため、開発者にとってPSSRをより活用しやすくなっており、PS5はモデル末期ではあるものの、PSSR対応タイトルが増えることが期待されています。


