AMDでは2022年初旬にTSMC 6nmで製造されるZen3+ CPUとRDNA 2 GPUを組み合わせたRyzen 6000シリーズ(Rembrandt)APUを発表し、徐々にラップトップ向けに搭載機種が広がっていますが、今回この中でTDP 15W台の薄型ラップトップやタブレットへの採用が想定されるRyzen 7 6800Uの電力効率に着目したベンチマークが出現しました。
Ryzen 6000シリーズ(Rembrandt)Ryzen 7 6800U
AMDのRyzen 6000シリーズ(Rembradnt)は2022年1月に開催されたCES2022にて正式発表がされ、アーキテクチャー面ではCPU側がZen3の小規模改良版に当たるZen3+アーキテクチャーを、内蔵GPUにはRyzen 5000シリーズまで使われていたVegaアーキテクチャーから最新鋭のRDNA 2アーキテクチャー搭載へ変更がされ、CPU性能は小幅に、グラフィックス性能は大幅な強化がされています。
製造はTSMC 7nmから6nmで行われるようになったことで消費電力面でもRyzen 5000シリーズを上回る効率を発揮すると見られています。
今回、NotebookCheckではRyzen 6000シリーズの中で薄型ラップトップやタブレット端末への搭載が想定されているTDP 15W~28W帯の中で最上位モデルにあたるRyzen 7 6800Uを搭載したASUS Zenbook S 13 OLEDを用いて、IntelのAlder Lake-P CPUとApple M1 CPUと電力効率面で比較するベンチマークが行われています。
なお、今回の主役であるRyzen 7 6800UにはZen3+コアが8基搭載されており、L2キャッシュは4MB、L3キャッシュは16MB搭載、動作クロックはベースが2.7 GHz、ブースト時は最大で4.7 GHzで動作します。
ライバル機種はApple M1 Pro、Alder Lake-P、AMD Zen3搭載
AMD Ryzen 7 6800U Efficiency Review – Zen3+ beats Intel Alder Lake | NotebookCheck
ベンチマークはCinebench R23を用いて行われ、シングルコア時とマルチコア時それぞれのベンチマーク実行時の消費電力を計測して電力効率を算出する方法が取られています。消費電力の計測にはWindowsではHWiNFO、MacではPowerMetrics機能で行われています。
ライバル機種となるのはM1搭載のMacbook Proが2機種で、1つには8コアのM1 Pro CPU、もう一つには10コアのM1 Proが搭載されています。Intel CPU搭載モデルでは、ゲーミングラップトップなどにも採用されているAlder Lake-HとなるCore i7-12700Hの他、Ryzen 7 6800Uの対抗馬となるAlder Lake-P系のCore i7-1260PやCore i5-1240Pを搭載したラップトップが用意されています。なお、Core i7-1260PやCore i5-1240Pについてはラップトップメーカーが任意に設定したPL1/PL2の値が定格より高めに設定されています。
今回、Ryzen 7 6800UとRyzen 5 5600Uだけが同種のコアを搭載するCPUとなっており、Apple M1 ProやAlder Lake系CPUではすべて高性能コアと高効率コアを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャーが採用されています。
ラップトップモデル |
搭載CPU |
CPUアーキテクチャー(製造プロセス) | PL2(ブースト時TDP) |
定格TDP |
---|---|---|---|---|
Apple MacBook Pro 14 | Apple M1 Pro (8 cores) | Apple M1 (TSMC 5 nm) | 25 W | 25 W |
Apple MacBook Pro 16 | Apple M1 Pro (10 cores) | Apple M1 (TSMC 5 nm) | 30 W | 30 W |
Asus Zenbook Pro 14 Duo | Intel Core i7-12700H | Alder Lake-H (“Intel 7” 10nm) | 80 W | 60 W |
Dynabook Satellite Pro C50D | AMD Ryzen 5 5600U | Zen3 Cezanne (TSMC 7nm) | 25 W | 15 W |
Lenovo Yoga Slim 7 Pro 14 | Intel Core i5-1240P | Alder Lake-P (“Intel 7” 10nm) | 64 W | 50 W |
Lenovo Yoga 9i 14 | Intel Core i7-1260P | Alder Lake-P (“Intel 7” 10nm) | 64 W | 38 W |
シングルコアの電力効率はApple M1が圧勝。Alder Lakeは全体的に低めに
シングルコア性能においては、Apple M1 CPUが圧勝と言う結果となっています。
Cinebench R23のスコアを消費電力で割って算出した電力効率を示す、1W辺りのスコアはApple M1が219ptを記録、次点でRyzen 5 5600Uが82ptを記録し、その次に僅差でRyzen 7 6800Uがランクインしています。
Ryzen 5 5600Uに対してRyzen 7 6800Uが劣っている結果については、Ryzen 5 5600UではRyzen 5シリーズという事でブースト時の動作クロックは最大で4.2 GHz、一方でRyzen 7 6800Uでは最大4.7 GHzという事やコア数が異なるため、このような結果になっているものと見られます。
Alder Lake-H/Uについては最もスコアが良かったCore i5-1260Pでも64ptとRyzen 7 6800Uを約18%下回る結果となっています。Core i5-1260Pでは最大4.7 GHzとRyzen 7 6800Uと同じブーストクロックが設定されていますが、Core i5-1260PなどAlder Lake系CPUではP-Coreのみ利用していても、アイドル状態のE-Core用キャッシュに電気が供給され続けるなどハイブリッドアーキテクチャーの悪い面がシングルコアの場合は出てしまい、このような結果になっていると見られています。
ラップトップモデル | 搭載CPU | CPU Package 電力 | CPU Cores 電力 | CBR23 シングルコアスコア | 電力効率 (W辺りのCBR23点数) Package/Cores |
---|---|---|---|---|---|
Apple MacBook Pro 14 | M1 Pro (8コア) | 7W | 4W | 1531pt | 219 / 383 |
Apple MacBook Pro 16 | M1 Pro (10コア) | 7W | 4W | 1531pt | 219 / 383 |
Dynabook Satellite Pro C50D | Ryzen 5 5600U | 15W | 11W | 1233pt | 82 / 112 |
Asus ZenBook S 13 | Ryzen 7 6800U | 19W | 16W | 1488pt | 78 / 93 |
Lenovo Yoga Slim 7 Pro 14 | Intel Core i5-1240P | 26W | 23W | 1663pt | 64 / 72 |
Lenovo Yoga 9i 14 | Intel Core i7-1260P | 29W | 26W | 1793pt | 62 / 69 |
Asus ZenBook Pro 14 Duo | Intel Core i7-12700H | 31W | 26W | 1807pt | 58 / 70 |
マルチコアではRyzen 7 6800UがCore i5-1240Pを45%上回る結果に
シングルコア時の電力効率はRyzen 7 6800Uに対してApple M1が圧倒的に高い1W辺りのスコアを発揮していましたが、マルチコアにおいては差が埋まり、10コアを搭載するApple M1 Proに対しては6%、8コア搭載のApple M1 Proに対しては2%劣るレベルにまで差を縮めています。
また、Ryzen 5 5600Uとの比較ではRyzen 7 6800Uが14%ほど高いスコアを記録しています。Ryzen 7 6800Uではベースの動作クロックがRyzen 5 5600Uに対して400 MHz大きくなっていますが、動作クロックが上がっても電力効率が落ちることがあまり無いようです。
Alder Lakeとの比較ではこの中で最も高い電力効率を発揮しているCore i5-1260PがRyzen 7 6800Uに対して36%下回る結果になっており、Core i5-1240Pに至っては47%も劣る結果になっています。
Cinebech R23のマルチコアスコアではRyzen 7 6800Uは10468ptを記録する一方で、Core i7-1260Pが10735ptで2%、Core i5-1240Pは11266ptという事でRyzen 7 6800Uに対しては8%上回るスコアは出せていますが、Ryzen 7 6800Uが記録した1W辺りのスコアに対して大きな差が出ているため、電力効率という観点では大きく劣る結果になっています。
ラップトップモデル | 搭載CPU | CPU Package 電力 | CPU Cores 電力 | CBR23 マルチコアスコア | 電力効率 (W辺りのCBR23点数) Package/Cores |
---|---|---|---|---|---|
Apple MacBook Pro 16 | M1 Pro (10 Cores) | 31W | 27W | 12370 | 399 / 458 |
Apple MacBook Pro 14 | M1 Pro (8 Cores) | 25W | 21W | 9581 | 383 / 456 |
Asus ZenBook S 13 | Ryzen 7 6800U | 28W | 25.5W | 10468 | 374 / 411 |
Dynabook Satellite Pro C50D | Ryzen 5 5600U | 21W | 17.8W | 6871 | 327 / 386 |
Lenovo Yoga 9i 14 | Intel Core i7-1260P | 44W | 41W | 10735 | 244 / 262 |
Asus ZenBook Pro 14 Duo | Intel Core i7-12700H | 68W | 63W | 15101 | 222 / 240 |
Lenovo Yoga Slim 7 Pro 14 | Intel Core i5-1240P | 57W | 53W | 11266 | 198 / 213 |
モバイル向けとして最適なRyzen 6000Uシリーズ
NotebookCheckでは、Ryzen 7 6800Uは同じx86系のAlder Lakeに比べるとシングルコアスコアが低いものの、マルチコア時のスコアは遜色がなく、Alder Lakeに比べて低い消費電力を維持している点が高く評価されています。
そのため、Ryzen 6000UシリーズはWindows搭載ラップトップにおいては現時点で最高のCPUであると締めくくられています。ただ、一方でRyzen 6000Uについては現時点では価格帯が高いラップトップにしか搭載されておらず、選択肢として入れるにしても採用モデルが少ない所が難点となっています。
IntelのAlder Lakeで採用されているP-CoreとE-Coreを搭載するハイブリッドアーキテクチャーは電力効率の向上が一つの目的で導入がされた技術になっていますが、そもそもP-Core側が動作クロックが上がれば上がるほど効率が大きく悪化する傾向にある事や、シングルコアベンチなどP-Coreのみが活用される場面でも、E-Coreを生かしておくのに余分な電力が喰われてしまうなどIntelの目論見通り電力効率が上がっているとは言えない気がしてきました。一方で、AMD Ryzen 7 6800Uについてはシングルコアの電力効率は低めでしたが、マルチコア時は非常に高くラップトップの中でバッテリー持続時間を維持しつつ、性能面でも妥協をしたくないというユーザーはRyzen 7 6800UなどRyzen 6000シリーズ搭載のラップトップを探して選択肢に入れるのが良いかもしれません。なお、Ryzen 7 6800U搭載ラップトップはについてはLenovoなどで販売がされていますが、NotebookCheckに書いていある通り、189,640円からと高価格帯モデルへの搭載となっています。
コメント
コメント一覧 (1件)
個人的に思うに、ですが
・そもそもGoldenCoveは本来旧7nm(現Intel4)を前提に設計された節がある。つまり、現状のIntel7ベースでは電力消費が大きくならざるを得ない。
・ハイブリッドアーキ自体が第1世代ということもあり、電力制御であれタスクスケジューリングであれ、改良の余地が大きい。
ということだと思います。