日本時間の10月9日、AMDが『Zen 3』アーキテクチャーを採用した第4世代『Ryzen』を発表しました。ここでは、現時点で判明している『Zen 3』Ryzenの仕様とその詳細そして、過去の噂を元に今後どのような商品が展開されていくかなどを紹介します。
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『Zen 3』の要点
- 初回発表モデルは11月5日に発売
- 価格帯は3万~9万円
- コア数などラインアップは『Zen 2』から変わらず
- 初期発表モデルは全機種末尾『X』の高性能モデル
- IPCがZen 2に対して約19%向上し、ゲーム時のパフォーマンスが大幅向上
- 500シリーズマザーボードであればBIOSアップデートのみで対応可能
- 2021年初頭に末尾『無印』モデルと4コアや10コアモデルが登場見込み
アーキテクチャー刷新で大幅な性能向上
10月9日に発表されたAMD『Ryzen』シリーズ最新作である『Ryzen 5000シリーズ』。アーキテクチャーは『Zen 3』へ進化し、アーキテクチャーの大部分を刷新。
発売は全世界で11月5日からを予定しています。
発表済みのラインアップ
ラインアップは『Zen 2』と変わらず最大コア数はRyzen 9の16コア、32スレッドとなります。また、初回発表モデルではすべて末尾に『X』が付いた高性能モデルのみラインアップされています。
後述しますが、在庫状況が落ち着くタイミングで『無印』版や4コア8スレッドのRyzen 3、そして噂されている10コア、20スレッドモデルなどが登場する見込みです。
世代 | ラインアップ | コア数/スレッド数 | 定格クロック | ブーストクロック | TDP | 価格($) |
Zen 3 | Ryzen 9 5950X | 16コア/32スレッド | 3.4GHz | 4.9GHz | 105W | $799.00 |
Zen 3 | Ryzen 9 5900X | 12コア/24スレッド | 3.7GHz | 4.8GHz | 105W | $549.00 |
Zen 3 | Ryzen 7 5800X | 8コア/16スレッド | 3.8GHz | 4.7GHz | 105W | $449.00 |
Zen 3 | Ryzen 5 5600X | 6コア/12スレッド | 3.7GHz | 4.6GHz | 65W | $299.00 |
Zen 2 | Ryzen 9 3950X | 16コア/32スレッド | 3.5GHz | 4.7GHz | 105W | $749.00 |
Zen 2 | Ryzen 9 3900X | 12コア/24スレッド | 3.8GHz | 4.6GHz | 105W | $499.00 |
Zen 2 | Ryzen 7 3800X | 8コア/16スレッド | 3.9GHz | 4.5GHz | 105W | $399.00 |
Zen 2 | Ryzen 5 3600X | 6コア/12スレッド | 3.8GHz | 4.4GHz | 95W | $249.00 |
価格設定について
価格は今回発表されたラインアップは同等の『Zen 2』モデルに対して50ドルほど値上げが実施されています。
日本円ですと、6000円~7000円の値上げになると考えられRyzen 9 5950Xは9万円台、Ryzen 5900Xは6万円台後半と言う価格になると見られています。
後ほど紹介しますが、パフォーマンスが大きく向上しており性能面で競合するIntel Coreシリーズを上回る事が確実なため、AMDは値上げに踏み切ったと考えられます。
これにより、今まではIntel Coreシリーズより安価だったRyzenですが『Zen 3』の価格設定によりRyzenの方が若干高いという価格設定になります。しかし、パフォーマンスの高さや競合との性能差を考えると妥当な価格設定とも言えます。
初回発表のモデルでは高性能モデルである末尾『X』のモデルですが、今後はクロック周波数が下がった末尾が『無印』のRyzenも登場すると見られており、急いで買う必要がなければ、もう少し安い金額で購入する事も可能と考えられます。
『Zen 3』での進化したポイント
- 8コア化されたCCX(Core Complex)
- CCX構成見直しでレイテンシーが大幅低減
- 『Zen 2』に対して約19%のIPC向上
- 『Zen』に対して2.4倍のワットパフォーマンス
8コア化されたCCX (Core Complex)とレイテンシー大幅低減
Ryzenシリーズの特徴と言えば、CPUの上にCCD呼ばれるCPUコア部分(CCDの中にCCXと呼ばれる部分で更にモジュール化されている)を複数搭載し、それらをI/Oダイに繋ぎ、マルチコア構成のCPUを作るという構造になっています。
この構造で得られる最大のメリットは、歩留まりの良さです。
RyzenではCCX4コア用のウェーハで製造し、その中からCCXコアが2つ以上残っていれば他のCCXと繋ぎ合わす事で商品にする事はできます。それ以上コアが使えればより上位のCPUとしても使えます。そのため、全体的に見るとロスの少ない製造が可能となりコストパフォーマンスの高い価格での販売が可能となっています。
一方でデメリットもあります。それは、CCDやCCXを跨ぐ処理が発生した場合などは物理的に距離が離れているためレイテンシーが発生したり、キャッシュなどは各CCX内でしか使えないため重複が発生するなどして性能が低下するというデメリットがありました。
しかし、『Zen 3』ではこのデメリットも解消されています。
Zen 2とZen 3でのCCD/CCXの違い
『Zen 2』では、CCDの最大コア数は8コアで、CCD内には最大4コアのCCXを2つ搭載しています。しかし、このCCXはそれぞれ独立しており、L3キャッシュはCCD単体で見ると32MBあるものの、各CCX毎に16MBで分かれており作業内容によっては各CCX内のL3キャッシュに重複が発生しリソースの無駄使いや、CCXを跨いだりする処理が発生した際にはレイテンシーが大きくなりパフォーマンスが頭打ちになるという問題がありました。
*RyzenではCCDやCCXを跨ぐ際は、一度I/O dieを経由してデータを授受する必要があるため、レイテンシーが大きくなります。
『Zen 3』では、このCCXを8コア化する事で、L3キャッシュを8コア全部で共有する方式へ変更されました。これにより大容量のL3キャッシュを効率よく利用する事が出来ると同時に、CCXを跨ぐ処理は無くなりレイテンシー発生を最小限に抑えています。
ただし、依然としてCCDを跨ぐ処理が発生した際にはI/O Dieを経由するためレイテンシーが発生しパフォーマンスは落ちますが、Windows 10など最新のOSでは可能な限りそれらを防ぐような対策がされています。
レイテンシー低減とアーキテクチャー改良によるIPC向上
CCXの8コア化など効率的な構成へ改良された『Zen 3』ですが、その他のアーキテクチャー全体も改良されています。
具体的には浮動小数点・整数演算などの演算エンジン、分岐予測やプレフェッチなどアーキテクチャーの根幹に関わる部分のほとんどを再設計しており、IPC向上に大きく貢献しています。
シングルスレット性能の大幅向上によりAMD最大の弱点克服
AMDによると、これらの改良の積み重ねによりIPCは『Zen 2』に対して平均で19%向上し、ゲームなどシングルコアパフォーマンスが重視される環境では性能が向上するとしています。
発表会では、Core i9 10900KとRyzen 9 5900Xのゲーム時のパフォーマンス比較が紹介されています。Battlefield VはCore i9に対して-3%を記録しているものの、他のゲームでは5%以上上回っている場面も多く、League of LegendsやCS:GOに至っては20%上回る記録を出しています。
ただし、このベンチマークに関してはAMDが発表しているものであるため、鵜呑みにはせず、独立したレビューアーが実施したベンチマークなどを基に最終判断する必要があります。
ゲーム時の比較より分かりやすく、客観性もあるデータとしては、発表会ではRyzen 9 5900XのCinebench R20のシングルコアスコアも紹介されました。結果はシングルスレッドでのスコアはデスクトップCPU史上では初の600pt越えである631ptを発揮していました。
これは、シングルコアパフォーマンスの高さを売りにしているIntel Core i9 10900Kの544ptを大きく超えています。ここで表示されているIntelのスコアですが、実際に複数のレビューなどを見ているとCinebench R20のシングルスレッドスコアは大体540~550ptの間に収まっている事から一般的な環境でのスコアと推察されます。
『Zen』に対して2.4倍のワットパフォーマンス
非常に高いシングルコア性能を持つ『Zen 3』Ryzenですが、TDPは『Zen 2』から据え置きの105Wのままです。これはIPCの向上によるもので、消費電力に直結するクロック周波数を大きく上げずとも、性能を高められるため実現したものと考えられます。実際にAMDでは『Zen』CPUと比較してワットパフォーマンスは2.4倍近く向上しているとしています。
また、Intel Core i9 10900Kとの比較においてはCinebench R20 マルチスレッド時では2.8倍『Zen 3』Ryzenの方がワットパフォーマンスは高いと発表されています。
何度も書いていますが、実際の数字は各レビューサイトの結果を見ての判断となります。
マザーボードの互換性
『Zen 3』Ryzenのソケットは従来のAMD製品と同じソケットAM4を採用しています。また、対応マザーボードは500シリーズが正式に対応しており、各マザーボードメーカーから提供されるBIOSアップデートを適用する事で『Zen 3』を載せた状態での動作が可能になります。このBIOSアップデートは既にASUSやMSI、GIGABYTEなど主要なメーカーで開始されています。
また、一部の400シリーズマザーボードでも『Zen 3』用のBIOSアップデートを適用する事で利用可能になる見込みです。
AMDによると400シリーズ用のBIOSアップデートは2021年1月頃からbeta版と言う位置づけで提供開始される予定です。(ただし、AMDとしては500シリーズマザーボードで『Zen 3』を動かす事を推奨していますのでこれから買う人は注意してください)
今後の商品ラインアップなど
11月5日に発売される『Zen 3』Ryzenは主にハイエンド向けモデルである末尾『X』のみがラインアップされ、仕様も16コア、12コア、8コア、6コアとかなり絞られたラインアップになっています。AMDとしては需要のあるラインアップだけに絞り在庫量を多く確保する狙いがあると考えられます。
一方で、初回発売モデルの需要が落ち着き始め、第11世代Intel Coreシリーズが発表されるタイミングでもある2021年初旬にかけて複数の『Zen 3』Ryzenをリリースすると考えられます。
その中には冒頭で紹介したクロック周波数を下げ、価格を安価にした末尾が『無印』モデル、逆にクロック周波数を上げた末尾『XT』モデル、Ryzen 7の10コア版、そして最廉価のRyzen 3や、Zen 3+Vega GPUを搭載したAPU(6000シリーズ)などが第11世代Intel Coreシリーズをリリースするタイミングを見計らって発売していくと考えられます。
6nm『Zen 3』RyzenとRDNA 2搭載したAPUが2021年に登場
10コアの『Zen 3』Ryzenが登場予定。新しいBoost機能も搭載
AMD Ryzenの2021~2022年のロードマップが一部判明
10月8日に発表され、11月5日に発売される『Zen 3』Ryzenですが、ユーザーの期待に応える高い性能である事が発表会で再確認ができたと思います。一方で価格面では少々値上げがされたものの、ライバルが不在である事やIPCが19%向上するなど性能相応な価格改定とも捉えられます。
高い期待度から11月5日の発売時点ではRyzen 9 5900XやRyzen 7 5800Xなどが売れ筋となるラインアップはしばらく品薄状態になる事が予測されますのでどうしてもすぐに欲しいという方は深夜販売などで入手する事が必要となるかもしれません。
また、『Zen 3』に対応している500シリーズマザーボードも発売が近づくにつれて品薄状態になる事も考えられます。もし今Intelユーザーであったり、400シリーズマザーボードを使っている場合は、狙いの機種等があれば事前に購入しておく事でスムーズに『Zen 3』に乗り換える事ができると考えられます。
一方で今すぐ『Zen 3』に買い替える必要が無いという方や価格重視の方は2021年初旬まで待つことがオススメとなります。なぜなら、価格が低い『無印版』や10コアRyzen 7などラインアップが豊富となると同時に初期に発売された末尾『X』モデルも徐々に価格が落ち着いてくるためです。
いずれにしても、自作PCユーザーにとって10月、11月は目が離せない月になりそうです。
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