2021年11月に発売される予定のAlder Lake-Sですが、Intelによると新しい電源規格であるATX12VOを各マザーボードメーカーや電源ユニットメーカーに推奨しているとの事ですが、そもそもこの『ATX12VO』とは何なのでしょうか?
Alder Lake-Sから採用され始める『ATX12VO』
Videcardzによりますと、IntelはAlder Lake-Sから新しい電源規格であるATX12VOの採用を推進しており、マザーボードメーカーやOEMなどに対して採用を呼び掛けているようです。ただし、マザーボードメーカーも電源ユニットメーカーもあまり積極的では無いとの事ですが、そもそもこの『ATX12VO』とはどのような規格なのでしょうか?
新しい電源規格『ATX12VO』とは?
多くの自作ユーザーにとって馴染み深いATX 24pin電源コネクターですが、この規格は1995年から利用されており進化が著しいPC業界で約25年間も変わらずに存在し続けている規格になりますが、遂にその歴史が変わるかもしれません。
現在主流のATX 24pin電源コネクターでは、12V、5V、3.3Vなど異なる電圧系統が含められており、電源ユニット内ではAC-DCで12Vに変換し、その後DC-DCコンバーターで5V、3.3Vに降圧させる方式が主に取られています。しかし、近年はパソコン内に存在するほとんどの機能は12Vで動作しており、5VはUSBやSSDなどの限られた機器、3.3VはRGB-LEDなど装飾品などにしか使われていないとの事です。
そこで、Intelでは、ATX 24pin電源コネクターに代わる新しい電源コネクター規格である『ATX12VO』を提唱し、2020年頃に仕様情報などを公開しています。この『ATX12VO』はATX 12V Onlyを略した言葉で、文字通り12Vレーンのみしか電源コネクター内に存在しておらず、コネクターも従来の24pinから10pinに大きく減らされています。なお、5Vや3.3VなどはマザーボードにDC-DCコンバーターを設置するなどして対応する必要性が出て来るとの事です。
ユーザーへのメリットとデメリットは?
How Intel is changing the future of power supplies with its ATX12VO spec | PCWorld
Report: 12V-Only Power Supply Spec Launching This Year | Tom’s Hardware (tomshardware.com)
メリット
・電源ユニットのコストダウン/省エネ性能向上
電源ユニットのAC-DC効率は主に高負荷時ほど変換効率が高く、低負荷時は変換効率が悪いと言われています。近年ではパソコンの低消費電力化が進んでいる事からAC-DCに対する負荷は下がる一方で、変換効率の低い領域を多用するような事になっているとの事です。これは特にACから12V/5V/3.3V DCに変換するマルチレール電源ユニットでは顕著との事です。そこで、『ATX12VO』ではAC-DCを12Vのシングルレーンとする事でアイドル時の変換効率を従来の50%から約75%にまで向上させられるとの事です。
・取り回し性向上
電源コネクターが12Vに統一されることから、コネクターが従来までの24pinから10pinに大きく減らされます。そのため、ケーブル自体の取り回しが非常に良くなることが考えられます。
・信頼性向上
5Vや3.3Vなどへ変換するDC-DCコンバーターがマザーボード内に移動することで使用する機器に大きく近づきます。これにより、DC-DCコンバーターが過電流や過電圧などのトラブルをより素早く検知そして、対処が可能になる事でシステム全体の信頼性が向上するとの事です。
デメリット
・マザーボードの価格が上昇
ATX12VOでは従来までは電源ユニット側でAC-DCを12V/5V/3.3Vに変換していましたが、ATX12VOでは12V DCをDC-DCコンバーターを通じて5Vや3.3Vに変換する必要があります。このDC-DCコンバーターはマザーボード側に搭載されるため、その分マザーボードの価格が上がる事が想定されます。ただし、SSD/USB用に5Vのみ搭載し、用途があまりない3.3Vを省略するなどの選択肢が広がるため、電源ユニットのコストダウン分を相殺するレベルにまで価格が上がる可能性は低いかもしれません。(登場間もない頃は恐らくコストダウン分を上回ると思われますが・・・)
・大量のHDD/SSDには対応できない
ATX12VOではHDD/SSDなどに利用する電源はマザーボード側から5Vに変換した電源を利用する必要があります。ただし、仕様上この5V変換の回路は最大6ポート分になっており、大量のSATA接続HDDやSSDを使うユーザーには対応ができません。
・非12V系機器はすべてマザーボード経由となる
これが恐らく一番大きなデメリットとなります。非12V系の機器、例えば5Vや3.3Vはすべてマザーボード上で電圧が変換されるため、それぞれ対応するコネクターがマザーボード側にあるか確認しなければならず持っている機器の個数やコネクター形状によっては使えなくなる可能性もあります。
自作ユーザーに普及するのはまだまだ先の模様
このATX12VOですが、電源ユニットのコストダウンや取り回し性、信頼性の向上などメリットもありますが、自作PCユーザーにとって既存の電源ユニットを丸ごと買い替えてまで行いたいと思えるような新規性があるとは言えません。むしろ、このATX12VOでは4pin MOLEXコネクターや光モノで必要な3.3V系統も使えなくなるため、買い替える必要性はゼロに等しくなります。
この事は恐らく電源ユニットメーカーやマザーボードメーカーなども理解していると考えられますが、恐らくAlder Lake登場初期の段階では省エネ性能に対して関心が高いと考えられるエントリーモデルを対象にリリースしていくものと考えられますが、ミドルレンジからハイエンドモデルへの展開はメリットがあまり無いためなかなか進まないと考えられます。
結局『ATX12VO』は誰のためのもの?
ATX12VOですが、省エネ性能が向上するというメリットが挙げられていますが、この点がATX12VO最大の売りです。そして、その売りを最も魅力的に感じているのがOEM側のようです。カリフォルニア州では2021年6月からCalifornia Energy Commission Tittle 20, Tier 2と呼ばれる法規が適用される予定で、この法規ではOEMに対してアイドル時のパワーを大きく減らす事をOEM側に要求しており、これら要件に適用するためにIntelは『ATX12VO』を各OEMに推奨していると見られています。この動きに対して、BTOなど法規対応が楽になる事から関心をしめしているものの、自作PC向けマザーボードメーカーなどはあまり関心をしてしていないようです。
ATX12VOですが、変更点やメリット、デメリットを見る限りフルサイズデスクトップを利用している自作PCユーザーにはあまりメリットは無さそうに感じます。特に省エネ性能についてはあった方が良いものの、必須では無い項目のため、使える電源を捨てて、新しく買い替えるほどのモノとは言えません。ただし、Mini-ITX規格の小型パソコンを作ろうとしている方にとっては取り回しが容易な10pin電源コネクターは魅力的で、5Vや3.3Vを使う機会も少ないことから選択肢になるかもしれません。恐らく、Alder Lake-S登場時もMini-ITXなどではこのATX12VOを採用した製品が多く投入されるのではないかと個人的には考えています。
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